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大阪高等裁判所 昭和61年(ラ)386号 決定

主文

一、原決定を取消す。

二、本件を京都地方裁判所に差戻す。

理由

一、本件抗告の趣旨と理由は別紙記載のとおりである。

二、当裁判所の判断

(一)  本件事件記録を調査しても、原決定のいうように抗告人会社の資本金の額、役員の氏名などは明らかでないし、これが債務者である代表者正垣勇の個人経営をするいわゆる個人会社であることを認めるに足る的確な証拠はない。

また、民事執行法六八条は政策的見地から、債務者が買受代金を有しているならこれを弁済に充てるべきこと、真実金銭がないのなら買受代金不払を招来し易いこと、同一債務名義による再度執行の問題が生ずること、債務者が自己の利益を図り、他に損害を被らせる危険性があることなどを配慮して、債務者の買受け申出を禁止したものである。

したがつて、債務者とは別個の法人格を有する者が買受を申出る場合には、それが同人と経済的一体に属する者である親族、個人会社であつても、それのみをもつて同条による買受の申出が禁止されるものではない。

法人たる会社を個人の債務者と同視して同条の買受無資格者と扱うには法人格が業務混同ないし財産混同などによりまつたく形骸にすぎない場合またはそれが法律の適用を回避するために濫用される場合につき認められる法人格否認の法理によるべきである(最判昭和四四・二・二七民集二三巻二号五一一頁参照)。

(二)  もつとも、たとえ債務者とは別個の者であつても、債務者の計算において買受けの申出をした者は民事執行法七一条三号により売却不許可となるが、これは債務者が資金を出していつたん法人を買受人としたうえ、その者が不動産を取得した後にこれを自己名義とする脱法行為を禁止しようとするものであるから、買受人が単に債務者の個人会社であるというのみでは足らず、この買受申出が債務者の商法五五二条二項などと同様の間接代理ないし実質上の出捐者の代理に準ずることが必要であるところ、本件事件記録によるとこれを認めるに足る的確な証拠がない。

(三)  以上のとおり本件事件記録による限りは本件につき民事執行法六八条、七一条三号を適用して売却不許可決定をなすには不十分であり、なお右の点を調査のうえ売却許可の許否を決定する必要があるし、右不許可事由が明らかとならないときは、一たん売却許可決定をしたうえ、他の買受申立人などによる売却許可決定に対する執行抗告をまつてこれを審理判断すべきであると考える。

(四)  よつて、原決定を取消し、右の点の審理判断をさせるため本件を京都地方裁判所に差戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官廣木重喜 裁判官諸富吉嗣 裁判官吉川義春)

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